• 【わたしも履歴書15】高比良さんの存在と不在

【わたしも履歴書15】高比良さんの存在と不在

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この間、デザイナーの弓削くんがこんなこと言ってました。
「自分は15歳までの記憶を基にデザインしている。」と。
なるほどなぁ、って思いました。
僕の約10コ歳下の彼のコレクションになんでこんなに共感できるのか、その答えを聞いたような気がしたからです。
ネイティヴ東京の弓削くんに対し、僕は18歳で上京して自分なりのファッション観を確立したのが20代半ばだと考えると、僕と彼との感性はちょうど合う、ってことですもんね。

 

そんな僕のファッション観が作り上げられたきっかけは、もちろん当時のボスだった御供さんに負うところが大きいのですが、身近に影響を与えた人物がもう一人いました。
その人の名は高比良昌雄。僕が御供さんのアシスタントをしていた頃に近藤さんのアシスタントをしていた、言わば『兄弟子』ともいうべき存在でした。
近藤さんは東京生まれ、高比良さんも東京、それも大久保育ちという「アーバン不良」って感じの人で、共に地方出身者だった御供、小沢組とは対称的なチームでした。
初めて会ったのは僕が御供さんに声を掛けられてお手伝いしたTOOLSの1周年パーティーで、そこからはわりといっしょにいることが多くなっていきます。
厳密に近藤→高比良、御供→小沢、という師弟関係だったわけでもなく、仕事内容に応じてクロスオーバーすることもよくありました。
なので、御供さんの「ポパイ」の仕事を僕ら二人でアシスタント作業することも多々ありました。


(右が高比良さん。僕は変な髪型で。恥)

高比良さんは前職がユニオンスクエアのスタッフだったので、当時のレッドウッドに僕を連れて行ってくれて清水さんや大器さんとおしゃべりしてた記憶があります。
ここでまた解説なんですけど、80年代後半から00年代までは渋谷のセレクトショップ(言わばインポートショップ)はユニオンスクエアが牛耳っていた時代だと断言できます。
明治通りのレッドウッド、今のタワレコのはす向かいにあったナムスビー、ここは渋カジの聖地でした。
そしてスペイン坂の地下のルイセット、ここは東京で一番カワイイ女子高生の溜まり場だった!更に東急ハンズの近くのアウトバックスタイル。
まだサファリウエアだった頃の「バナナリパブリック」やヘミングウエイ御用達の「ウイリス&ガイガー」とかが品揃いされていて・・つまり、それらを運営していたのがユニオンスクエアという会社でした。

 

いつかフイナムで90年代のユニオンスクエアの快進撃時代を掘り下げて欲しい!と熱望します。で、これらのラインナップだけを見ると高比良さんはアメリカ好きだと思うかもしれないけど、趣味の幅が異常に広くてヨーロッパのファッションにも詳しかった。
ギャラリー(インターナショナルギャラリー ビームス)に連れて行かれて立野浩二が手掛ける「カルチャーショック」やスコットクローラによる「クローラ」とか、あと当時全盛期だった「ロメオ ジリ」「アントニオ ミロ」とかバンバン買ってた気がするなぁ。
アシスタントのギャラなんかたかが知れてるのにあんなに洋服買えるなんてやっぱり実家暮らしはいいな、なんて羨ましかったりした思い出もあります。

 

けっして面倒見がいい、というタイプでもなく「アーバン不良」なのでどこかクールで人を寄せ付けないところもありましたが、今こうして振り返ってみると僕のファッションの知識と感覚に大きく寄与してくれたのは高比良さんだったんだなぁって、つくづく思いますね。

TOOLS BARのドアマンもいっしょにやりました。
前に書いた通りプロパーのスタッフとは仲が悪かったので、高比良さんはよくイザコザを起こしてました。
でも何食わぬ顔でバーカウンターで自分のドリンク頼んだり。
そんな肝っ玉の座ったところも憧れだった。音楽にも詳しくて、TOOLS BARでもDJやったり。となればカルチャーも然り。
その頃、竹下通りにバックナンバーの洋書を安く売る本屋があって、そこにも連れてってもらいました。
「ル・ウオモ ヴォーグ」の弟版の「ペル ルイ」って雑誌がカッコイイんだ、って教えてもらって僕も買いました。 

これは1984年の号。
ブルース・ウエイバーがロサンゼルスオリンピックの選手を撮影した有名な写真が掲載されています。表紙に300円!って書かれているの分かるかなぁ?

 

そんな高比良さんともいつの間にか会わなくなってもう数十年。
僕の方が独立してMADE IN WORLDだ、なんだとバタバタしているうちに何となく交流も途絶えていきました。
彼が亡くなったって聞いたのも、もう随分前な気がします。
寂しい、とか、もう一度会いたい、とかそういう感情はあまりなくて、例えばリバー・フェニックスが他界したみたいな、事実は受け止めるけど感情は伴わないみたいな・・・ん〜、やっぱり上手く表現できません。
もっと言うと、本当は死んでなくて「小沢〜、勝手に死んだことにするんじゃねえよ!」って連絡ありそうな気さえするんです、マジで。

さて、僕の時空を巡る旅はまだまだ続きます。次回をお楽しみに。